正統派の代々幡斎場

20世紀後半の10年は、戦後50余年の日本社会のあり方が根本から問い直された、混乱と低迷の時代であった。 教育も例外ではなく、いじめや不登校、学級崩壊や学力低下、さらには青少年による凶悪な犯罪の多発など、問題はますます深刻度を深めつつある。
とりわけ昨今の日本では、万引きや女子高生の援助交際などが大した罪悪感もなく行われるなど、「衣食足りて礼節を知る」どころか、豊かになって最低限の道徳や倫理さえ失われてしまった。 この原因を学校教育にだけ求めるわけにはいかないが、現実に荒廃した日本の姿を直視すれば、教育の再生は喫緊の課題として真剣に考えなければならないはずである。
これまでにも臨時教育審議会や中央教育審議会など、数多くの審議会が設けられ、教育改革について議論が重ねられてきた。 その結果、すでに教育のあらゆる問題が取り上げられ、アイディアも出尽くしているともいわれている。
しかしながら、ほとんど成果らしき成果を生み出せず、かえって悪化させているとまでいわれるのはなぜか。 それは敢えて枝葉の改革に終始し、抜本的な改革、やりにくい改革については先送りしてきた教育行政と教育界の体質と姿勢にあるのではないか。
折りしも、故・O総理によって昨年(2000年)の3月に設置された教育改革国民会議が、12月22日に最終答申を発表した。 9月に発表された中間報告では、「教育基本法」の検討に消極的であったが、最終答申では改正検討の必要性を認めたものの、論議は先送りされたのである。
しかし、現実の教育荒廃を正し、今後の日本の教育を根本から見直すためには、何よりも「教育基本法」から再検討しなければならないのではないか。 なぜなら、戦後日本の教育は、現行の「教育基本法」によって教育の目標や教育方針が定められ、その解釈に基づいて「学校教育法」など教育の法体系がつくられている。

それを実践してきた結果が現在の教育の荒廃を生み出しているからである。 しかも「教育基本法」が施行されて、すでに50年余、法律の制定当時と昨今の日本の状況はまったく違う。
冷戦構造は過去のものとなり、日本は独立国として豊かさを享受している。 そして迎えた21世紀は、情報技術の進歩によって国境の壁は限りなく低くなり、経済活動はますますグローバル化し、高度な技術と知識が重要視される社会となることが予測されている。
したがって、このような新しい時代に相応しい教育を生み出すためには、何よりも現行の「教育基本法」を、根本から見直苔なければならないはずである。 1983年、P研究所は、創設者・Mが座長となり、各界の有識者11名の協力を得て、民間の自由な立場から政策を研究・提言する機関「世界を考える京都座会」を創設した。
その後、弊所では「世界を考える京都座会」の活動を核に、民間の独立したシンクタンクとしてさまざまな分野の提言を発表してきた。 その最初の提言は、1984年に発表した教育提言「学校教育活性化のための7つの提言」である。
この提言は、教育の自由化を基本理念に、学校設立の自由化、学区制の緩和、規範教育の徹底などを骨子とするものであった。 この提言発表直後、当時のN総理の肝いりで、臨時教育審議会がスタートした。
そこでは、私たちの提言した「教育の自由化」についても議論の対象になった。 しかしこの提言は教育論議を沸かせたものの、さまざまな誤解や曲解の末、その趣旨が正しく生かざれることはなかった。
このことは私たちにとって苦い経験であった。 それだけに、教育改革国民会議が「教育基本法」の論議を先送りにしてしまったことを、とても見過ごすことはできない。
そこで弊所では、昨年の10月、独自に新しい教育基本法の私案を作成することを決意した。 私たちはこの思いをK先生にお伝えし、検討プロジェクトの主査をお願いしたところご快諾いただき、続いて、I・W・O・W・Hの諸先生には検討委員をお引き受けいただくことができた。
このメンバーに、弊所の副社長Eを加えた7名の委員で、「新・教育基本法」検討プロジェクトはスタートしたのである。 いずれの先生も多忙を極めておられ、研究会は11月と12月の土曜日、日曜日の休日を中心に集中的に実施された。

そして、暮れも押し迫った12月29日に、ようやく大筋がまとまった。 当然のことながら「教育基本法」を新しくするだけで日本の教育が直ちに変わるわけではない。
日本の教育を再生させるためには、新しい教育基本法の趣旨に基づいて一連の教育の法体系を整備し直すことと、息の長い地道な努力が不可欠である。 そして、過去50年以上かけて壊してきた日本の教育を睦らせるためには、やはり20年、30年の歳月をかける決意が必要であろう。
そのような覚悟を持って、私たちは今後の日本の教育改革に取り組まねばならないのではないだろうか。 21世紀の日本社会は、一層知識が高度化し、技術が劇的に発展して、開かれた、自由で多様性に満ちた社会であろう。
そこでは国と国、人と人の交流がますます盛んになり、相互の触れ合いがさらに重要となる。 そのような新しい社会における教育の基本は、まず、人間が偉大な存在であることを教えるとともに、個々人の持てる能力を引き出すことにある。
さらに、人類普遍の価値観と、不易の価値に基づいた道義・道徳を教えることである。 これによって、個々の国民の豊かな情操と品性、また人間的、理性的な心が養われ、自他相愛の精神や自主・自律の精神が培われる。
このことは人間の共同生活を営む上できわめて重要である。 もう一つの基本は、国民としてのあり方、正しい国民意識を育てることだ。
即ち、国際的な常識や国際感覚を高めるとともに、民族の歴史や伝統、習慣に尊敬の念をもち、国を愛する心を教えることである。 個々人が祖先の教えを吸収し、そこに新しい時代の創意工夫を加えて次代に伝えていく。
この営みが連綿と続くことによって人間の英知が集まり、文化が発展し伝統が継承される。 その意味で教育は国家・国民の発展の基盤であり、時代と時代をつなぐ架け橋でもある。
最後に、将来の知識社会、そして価値観の多様な社会において求められる教育とは、新しい社会に適応し、さらに進歩発展していく社会を支える基本的知識を教えることである。 その上に立って、個々人が自由に自らの素質・才能を磨くことができ、それぞれの天分を十分生かせるような教育を実現しなければならない。

以上のような観点から21世紀の日本の教育を確立するため、この法律を制定する。 基本法に「普遍性」「国民性」「時代性」の視点を織り込んでいる。
「普遍性」の一つとして道義・道徳の項を明示し、「国民性」を形成するものとして、国際感覚を高めることと共に、民族の歴史・伝統や、国を愛する心の伝承を明記した。 「時代性」については、来るべき社会を高度な知識社会、価値観の多様な社会、グローバル化が進んだ社会と位置づけ、それに適応する教育を目指している。
国の歴史・伝統・文化の正しい継承をベースに、潜在的に有する道徳的・知的能力を発揮させ、立派な日本人の育成を目的としている。 教育目的を実現するために家庭の位置づけを明確にした。

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